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★幽霊少女「……あなた、もしや私の姿が見えるのですか?」

hisame

251 名前:1/14 :2006/02/19(日) 00:48:23 ID:ZRt22Wt10
――少し、想像力を働かせてみて欲しい。

季節は夏。大学生である君とその家族は、祖父の葬儀のため父方の田舎に向かう。
山野に囲まれたのどかな村で、都会の喧騒をしばし忘れている君。
地元では名士だったらしい祖父が住まう家屋は、武家屋敷を思わせる広大さ。
親族たちの歓待から開放された君は、子供のような好奇心でもって広い屋敷を
歩き回っているうちに、祖父が使っていた部屋で奇妙な少女に出会う。

さて、ここで質問だ。

「……あなた、もしや私の姿が見えるのですか?」
「…………」

見た目、十二~三歳の紅い着物姿の少女が

「質問に答えなさい。私が見えるのかと聞いているのです」
「…………」

容姿に似合わぬ大人びた口調で

「その表情から察するに、見えているようにしか思えないのですが……」
「…………」

“空中に浮遊したまま”問いかけてきた場合には、どう答えるべきだろう?

①見えない
②見えないよ
③見えないってば

えーと……えーと………む、むつかしいなあ………えーい、ままよ!



253 名前:2/14 :2006/02/19(日) 00:49:09 ID:ZRt22Wt10
「①見えないっ! 着物姿の女の子なんか全然見えないってマジで!!」
「………これ以上無いほど愚かしい回答をありがとうございます。さてはあなた、莫迦ですね?」
「くっ………カメ虫を見るような目で断定されたっ……!」
「……まあ、いいでしょう。莫迦でも愚鈍でも久方ぶりに話の出来る相手ですし」
「えーと、その、僕は……君にとり殺されちゃうのかな?」
「莫迦なだけでなく、浅慮で無礼者ですか。それがあなたなりの自己紹介なのですね?」
「うふふ、うふふふふ……僕にマイナス方面の個性がどんどん付与されていくよ……ふふふっ」 
「遠い目で呟くのはそのくらいになさい」


紆余曲折があり、だだっ広い和室に正座させられて少女の話を聞く羽目になった。
なんでもこの子は、四代ほど前に遡る先祖であるらしい。
年若くして病気で亡くなったが、以来こうして家を見守っているのだ、とのこと。

「……座敷童子、っていうヤツなの?」
「違いますね。座敷童子とはその家を富ませる物の怪でしょう?」
「うん、一般的には。だってほら、この家ってここ数代すごく成功したらしいし……」
「私はその辺には関与しませんので。偶然でしょう」
「じゃあ見守るっていうのは……」
「言葉通りの意味です。見ーてーるーだーけー」

ぶっちゃけた! ぶっちゃけたよこの子! 悪びれる様子も無く!

「……まあ、ごくごく稀にあなたのような“見える”人が、そう勘違いしたこともありますが」
「そういう時、君はどうしたの?」
「とりたてて否定はしませんでした『……御供えには、みたらし団子が吉』と呟いたりはしましたが」


254 名前:3/14 :2006/02/19(日) 00:49:58 ID:ZRt22Wt10
うわあ……やらずぶったくりっスね?
しかもみたらし団子、て。食えるんですかあなた。

「つまり……今までの話を総合すると、君は由緒正しいニートなんだね?」
「にーと? にーと、とはなんです?」
「………説明したら負けかな、と思うからやめておく。それでさ……」

やがて妹が僕を探しに来るまで、少女との会話は続いた。
「故人を偲んでいた」と誤魔化しながら祖父の部屋を後にする。
彼女に聞こえたかどうかは分からないけど、「おやすみ」と小声で挨拶。
妹に急かされながら、ぼんやりと彼女との会話を反芻する。
可憐な佇まい、鈴を振るような声。桜色の唇が歌うように動いて――

――莫迦ですか
――黙って聞きなさいこの俗物
――いいですか凡夫。何の取り得も無いあなたでもこうして私と話が出来るからには……

待て。
なんか、ちょっと違くないか。
こういう回想はもっとこう、心温まるやりとりであるべきではなかろうか。
何ゆえ先ほどの会話は、僕への罵詈雑言のみでもって構成されているのか。

「……お兄ちゃん、なんで泣いてるの?」
「な、涙の数だけ強くなるため、かなあ………ぐすっ」


255 名前:4/14 :2006/02/19(日) 00:50:48 ID:ZRt22Wt10
翌朝。眠い目をこすりながら洗面所に向かう途中で、例のビックリドッキリ先祖に会う。

「おはようございます。良く眠れましたか?」
「………おはよう。うん、昨夜の気疲れする会話のおかげでぐっすりと…
 ――いやいやいやいやちょっと待って。なんで朝から? しかも縁側に?」
「霊が朝方出歩いてはならない、と誰が決めたのですか?」
「決められてはないだろうけど……でも、なんかこう………」
「あの……お、お兄ちゃん………誰と話してるの?」
「ああ、おはよう祐子。いや、こちらにおわすTPOをわきまえない方にちょっと………」
「……妹さんは、私の姿と声は認識出来ないようですが。
 あなたの夢うつつな鳥頭は、そのあたりを理解していますか?」
「そーなの? じゃあ、なんだ。今の僕って、目を合わせるにはちょっぴり気まずい人っぽい?」
「有り体に言えば。ああ、あなたの背後で妹さんが泣きそうになっていますね」
「……お、おかあさーん! お兄ちゃんがおかしくなったあっ!!!」
「………………」
「………………」

その後、歯を磨き終えた僕が居間に行くと、目に涙を溜めながら俯き加減の妹を
「ばかねえ祐子は。昌悟がおかしいのは今に始まったことじゃないでしょう?」と
優しく慰める母さんの姿があるわけで。
ほうじ茶を啜る父さんからは「昌悟……奇行は隠れてやるもんだぞ?」などという
ありがたいアドバイスもゲット。
ちなみに件の少女霊は朝の連ドラをかぶりつきで観賞中だったり。

とても良い朝ですね。死にたくなるのを除けば。


256 名前:5/14 :2006/02/19(日) 00:51:36 ID:ZRt22Wt10
砂を噛むような味の朝食を摂り終えると、それでも少しは元気が出てくるもので。
屋敷の周囲を囲む山林へ散歩に出かけることにする。もちろん僕の傍らには……

「なんで居るの?」
「私と話が出来るのはあなただけだと言ったでしょう?」
「いや、別に話さなくてもいいじゃん。さっきまで連ドラ観てたし」
「……私と話すのは、嫌ですか?」
「えっ? 別に、そういうことは……」

か細い声で下方から問いかける姿に、少し慌てる。
ワンセンテンスごとに僕を罵倒する女王様型少女霊・改に似合わない態度だ。
……しかしまあ、なんだね。アレだよね。
若いというよりは幼いと形容したほうが相応しい容姿なんだけども。
この子はめっちゃ綺麗だ。黒絹みたいな髪がさらさらと風になびいて
白い肌とのコントラストが際立つ。紅を引いてるわけでもなかろうに
艶めかしい唇は薄くて形が良く、吊り目がちな黒瞳は濡れたような
光を湛えて僕の顔をじっと――

「……何か、凄まじく下種なことを考えてはいませんか?」
「う、ううん。そんなコトないよ? ないったらないんだよ?」

人が道を踏み外すのはきっとこういう瞬間なんだろうなあ。
僕、一応は二つ下~人妻までがストライクゾーンのはずだしなあ。
ボール球に手をだして社会的バッターアウトになるのは御免こうむりたいところ。
あせらず球を選んでいこうぜ!

「そっ、そんなことよりもさ、ここって空気が美味しいよね!」
「私に劣情を抱くような、人面獣心意馬心猿な鬼畜にも
 ここの新鮮な空気を味わう権利があったのですか? 驚くべき事実です」

むしろビーンボールでした。


257 名前:6/14 :2006/02/19(日) 00:52:23 ID:ZRt22Wt10
なんだかんだ言いながらも、暇さえあれば彼女は僕の前に姿を見せる。
周囲に人が居ない時を狙って現れるのは彼女なりの気遣いなのかもしれない。
まあ、それでも幾度かは妹に「虚空と会話する僕」を目撃させてしまったが。
気遣いが気違いに早変わりって寸法さ。洒落が効いてると思わないか、ジェイク? HA-HA-HA!!

……最近、祐子が何か痛ましいものを見るような視線を僕に向ける。どうにかせねば。


庭の隅にある土蔵の裏手で、かの少女がぽつねんと佇んでいるのを発見。
周囲に人影は無し。母さんと妹は、親族の女性陣と一緒に夕飯の仕度をしているはずだ。
例の相談をするには絶好の機会と言える。さっそく実行に移す。

「……話が見えませんね。要するにどういうことですか」
「うん。つまりその、僕に話しかけるのをしばらく止めてほしいかな、って」
「何故」
「……妹が怖がるから……僕のことを」
「ああ、妹さんや他の方には私が見えませんからね。無理も無いでしょう」
「ここ二、三日の間で、祐子に4、5回は目撃されてるんだよね……君との会話を。
 実の兄が『見えないナニカ』と語り合ってる姿って、多感な年頃の女の子にはどう思えるだろう?」
「私が妹さんだったら、他の家族と協議の上しかるべき施設に収容します。
 あなたが泣こうが喚こうがそうします。そして見上げた青空にはあなたの笑顔が大写しです」

死んでる。それ死んでる。
というかすげえ嬉しそうに語りますね。Sっ気隠そうともしませんか。

「これ以上心配させるのは嫌だからさ。……頼むよ」
「……ふん。なんですかいつになく神妙な顔で。そんなに妹さんが大事ですか?」
「そりゃまあ。かわいい妹だし、これからも兄妹仲良くやっていきたいし」
「…………………」


258 名前:7/14 :2006/02/19(日) 00:53:15 ID:ZRt22Wt10
そうなのだ。他の家庭がどうなのかは知らないが、うちは幸いにも親子仲や兄妹仲が良好だ。
妹の祐子は4つ年下の中学二年生。まだ少し子供子供した部分が抜けきらないとはいえ
身内贔屓を差し引いても気立てが良い子で、小さい頃から僕を無条件で慕ってくれたかわいい奴なのだ。
義理チョコとはいえ、手作りしてくれるんだよ? ゴディバ買ってくるよりは手間かかりますよ?
つうか強そうな響きだよね、ゴディバ。RPGなら中ボスくらい務まる名前だよね。
>ゴディバがあらわれた! コマンド?→ 
何の話だったっけ……えーと、そうだ、つまり

「というわけなんで、その方向でひとつお願い」
「前向きに努力させて頂く所存です」
「いや、あの。そんな日本的玉虫色回答じゃなくて。はっきりと……」
「社に持ち帰って検討させていただきます」
「勤めてないだろう。ネバーエンディング無職だろう君は」
「……はあっ……わかりました。これからしばらくは話しかけることをやめましょう」
「え? マジで?」
「失礼な言い草ですね。あなたが言い出したことでしょう?」
「うん、そりゃそうなんだけど……君がこんなにあっさり折れてくれるとは思わなかったから」

いつもの5割増しくらい罵倒された上で折れると思っていた。彼女の意志がではなく僕の心が、だ。
僕は基本的にも応用的にも弱気なので、意志や決意がポッキーより折れやすい。

「ありがと、そうしてもらえると助かるよ」
「勘違いしないことです。妹さんのため、という点を考慮しただけですので」
「わかってる。じゃあ、ここからはそういう方針でいこう」
「…………」


259 名前:8/14 :2006/02/19(日) 00:54:02 ID:ZRt22Wt10
彼女はさっそく黙り込む。うむ、実践が早い。
ちょうど夕飯が出来た頃だし、妹が僕を探しているかもしれない。
やがて軽い足音が近づいてきて――
「……お、お兄ちゃん、晩ごはんできたよ……」

ビンゴ。
まだ少し及び腰とはいえ、それはすぐ元に戻るだろう。
妹よ、もう兄のサイコな言動に心を痛めなくてもいい。
兄が拘束衣を着せられて何処ともわからない施設に収容されることは無い。
……多分。

「今行く。ちなみに今夜のメニューは?」
「あ………うん、あのね、なんかこっちの名物料理みたいだよ。
 すっごく美味しそうなの。加南子伯母さんたちもはりきっちゃって……」
「祐子も手伝ったんだろ?」
「わたしはじゃがいもとか剥いただけだし」
「芽には毒がある。これ、トリビア」
「あははっ、そんなの皆知ってるってば」

楽しそうに話す祐子の頭越しに、ちら、と土蔵の方を窺う。
少女はじっとこっちを見ていた。土蔵の白い壁に紅い着物が良く映えている。
この距離ではどんな顔をしているのかまでは分からない。分からないが……。

なぜだろう。なんだか、自分がいじめっ子になったような気がした。


260 名前:9/14 :2006/02/19(日) 00:54:46 ID:ZRt22Wt10
彼女の意志は、僕と違って強固だった。
少女は翌日から一切僕に話しかけてこないようになった。
ただ、姿が見えるのは相変わらずなので妙に気詰まりがする。
例えばこんな風に、親族や家族と和気あいあいとした朝食を摂っていても。

「……………………」
「……あー、こ、この漬物美味しいですね」
「あら、そういって貰えると嬉しいわねー。これ自家製だから」
「……………………」
「う、うん、ほんと美味しいなあ、この漬物っ!」
「……………………」

真正面、食卓上空に正座して僕をまじまじと眺める少女霊が居なければ
もっと美味しいかもしれない。彼女はとても恨めしげな顔で僕を睨んでいる。
そもそも幽霊だから、そういう顔をしているのが正しい在り方なのかもしれないが、
小馬鹿にしたような顔や呆れ顔でなく「恨めしそう」な顔というのは初めて見る。
怖いし、消化に良くないし、非常に居心地が悪い。
内心で冷や汗をかきながら機械的に箸を動かしていると、伯父と父さんの会話が耳に入ってきた。

「いつごろまでこっちに居られるんだ?」
「ああ……仕事もあるから、あと2、3日がせいぜいかな」
「もっと居りゃあいいのによ。お前は親父とあんまり折り合い良くなかったけんど、
 別にもう誰も気にしねえやさ。20年ぶりに帰ってきた家だろうが」
「そういう訳にもいかないよ」
「ま、無理にとは言わんけどよ……」

父さんと祖父の折り合いが悪かったというのは初耳だ。
そう言えば、小さい頃に遊びにいく「じいちゃんばあちゃんの家」は母方に限られていた。
もし、この家をもっと小さい頃から訪れていたら

「……………………」
……この子とも、無心で仲良くなれただろうか?


261 名前:10/14 :2006/02/19(日) 00:55:29 ID:ZRt22Wt10
夕食後、あてがわれた客間でぼんやりしていると、祐子がトランプを持って遊びに来た。

「なんかこう、もっとデジタルでハイテクな遊具は無いのか?」
「でも……たまにはこういうのも面白いと思うよ」
「じゃあ僕がトランプタワー作るから。祐子はそこで指咥えて見てろ」
「お兄ちゃん一人を楽しませるために持ってきたんじゃないのっ!」

「………………」

やがて彼女も来た。話しかけてくるわけでも無い。ただ僕と祐子を見ているだけだ。
ポーカー、ブラックジャック、神経衰弱。室内には僕と祐子の笑い声だけが響く。
やがてゲームはババ抜きに移行する。
2のペア、7のペア、クイーンのペア、残るジョーカー。
エースのペア、3のペア、6のペア、キングのペア、余るジョーカー。

彼女はただ見ている。恨めしそうにではない。何か眩しいものを見るように。

僕は、手の中のジョーカーを見ながら思う。
なんでこのカードだけペアにならないんだろう。
当たり前だ。だってこれはそういう遊びだから。
誰かが勝手に決めたルールで「仲間はずれ」になってるだけだ。
僕が悪いわけじゃない。祐子が悪いわけじゃない。だけど――

「だけど、君だって、悪くないはずだ」

はっきりと、彼女を見据えて言った。
祐子が目を丸くして僕を凝視するが、構わない。
元は自分で言い出したことだけど、僕はやっぱり意志が弱いから。
彼女は確かにそこに居るのに無視し続けるなんて、こんなのは嫌だ。


262 名前:11/14 :2006/02/19(日) 00:56:45 ID:ZRt22Wt10
「君、カードに触れられる?」
「………………」

少女は祐子に劣らず目を丸くしていた。何を言い出すのか、と。
あんなに妹を気遣っていたのに今更何のつもりか、と。

「……お、にい、ちゃん。あ、あの……その……」
「祐子。僕は気が狂ってるわけじゃない。少しだけ待ってくれ」
「お兄……」
「触れられるなら、このカードを持って」

クイーンのカードを手渡す。彼女にはぴったりだと思ったから。
少女は覚束ない手付きでカードを持つ。隣では祐子が息を呑む気配がした。
彼女の姿が見えない祐子にしてみれば、空中にカードが浮いているようにしか見えないはずだ。
怖がらせないように細心の注意を払って、告げる。

「祐子。彼女が、僕のここ数日の話相手だよ。この家のずっと前のご先祖さま」
「……………」
「……………」

少女の唖然と妹の呆然を交互に眺める。
祐子は宙に浮くクイーンを見たまま固まっている。少女はクイーンを手にしたまま目を泳がせている。
僕は言葉を重ねていく。

「生きてる人じゃないけど、悪い存在では無いと思う。
 祐子には見えないだろうし、他の人にも見えてない。僕だけが見えた」
「…………ゆうれい、なの?」
「うん。でもすごい綺麗なんだぞ。だけど口が悪い。めちゃくちゃ悪い。
 容姿端麗という美点を相殺どころか虐殺するくらい悪い。そんな美少女霊」
「………私を驚かせたいのか怒らせたいのか、どちらですか?」
「いやもうこの期に及んで、君にそんな風に睨まれても怖くないもんね!
 でさ……どうだろう、祐子。彼女も交えて三人で遊ばないか?」 


263 名前:12/14 :2006/02/19(日) 00:57:30 ID:ZRt22Wt10
視線を僕に戻した祐子は、大きく深呼吸をひとつ。
クイーンの方向に身体を向けて正座して。
柔らかく笑いながら。

「はじめまして。祐子です」
「………………はじめ、まして………」
「はじめまして、って言ってる。あ、そういえばまだ君の名前聞いてなかったなあ……」
「…………お兄ちゃん、それすごく失礼」
「祐子さんは、お兄さんと違って礼儀正しいのですね」
「………祐子はお兄さんに似て礼儀正しい、と言ってる」
「くうっ………わ、私の言葉が捻じ曲げられていきますっ……!」

それからはまあ、わざわざ書き記すまでもない。
僕らは彼女にルールを教えながら、色々なゲームに興じた。
話していた時の印象どおり彼女はとても聡い子で、簡単な説明と数回のゲームでルールを理解した。
セブンブリッジでは祐子と共謀して僕に足止めを食らわす、という段階にまで進化していたほどだ。
僕という通訳を介して、祐子はあっという間に彼女と仲良くなり、

「……お兄ちゃんの通訳、ところどころヘン。ちゃんと正しく伝えてる? うそ言ってない?」
「ば、ばっかだなあ祐子は。僕が嘘なんか言うわけがっ」
「素晴らしい。この三流通訳の意図的な誤訳を看破するとは……」
「祐子は素晴らしいと言ってる」
「その後も伝えなさい。一言一句違えずに」
「こ、この三流通訳の、ぐすっ……意図的、な………」

気付けば僕の味方はいなくなるほどだった。


264 名前:13/14 :2006/02/19(日) 00:58:18 ID:ZRt22Wt10
僕たちはその後もそんな感じで、日々を楽しく過ごした。
ただまあ、楽しい時間というのはいつか終わるもので。

「もう……ここを発つのですね」
「う、うん。そろそろ父さんの仕事が詰まってきてるらしいんだ。だから……」
「祐子さんに宜しく伝えておいてください。楽しかったです、と」
「そんな、もう二度と会えないみたいな言い方は止そうよ」
「……………あなたにも、感謝します。今度のことは類稀な経験でした」
「……………だから、そういう言い方は……」

淡々と紡がれる寂しげな声色が僕を打ちのめす。何か言おうとしても、上手い言葉が出てこない。
何か、何かを言わなければ。ただ焦るだけで空回る思考。その時、外から僕を呼ぶ声がした。父さんだ。
既に僕たちの荷物は親族からの土産と共に車に積み込まれ、後は僕というかさばる荷物が残るだけ。
祐子はもう車の中にいるはずだ。朝から泣きそうな顔をしていたから、彼女にその顔を見せたく
なかったのだろう。ふと、自分の行動を振り返る。彼女にも祐子にも残酷なことをしたのだろうか、と。
今生の別れでは無いにせよ、またしばらくの間この家を訪れることは無いだろう。
彼女はまた一人ぼっちになり、祐子はその姿を想像して心を痛める。無論、僕だって。
俯いたまま立ち尽くす僕の耳に、ついさっきまでとは打って変わって明るい声が響いた。
――明るい、声?

「……これなら、今後にも楽しいことがあるかもしれませんね」
「えっ?」
「見えなくても、声が届かなくても、触れ合えるということを知りましたから」
「…………えっと……」
「ではまた後ほど。幾久しくお健やかに」

つま先を眺めていた顔を上げると、ふらりと宙に浮く彼女と目が合う。彼女は……笑っている。
冷笑でも自嘲的な笑みでもない。年相応に悪戯っぽく、でも花が咲いたように魅力的な笑顔だった。

「………騙された、か。ははっ」

そうして、広い部屋には彼女の演技に騙された間抜けだけが残った。


265 名前:14/14 :2006/02/19(日) 00:59:01 ID:ZRt22Wt10

とある、夏の情景。



「おとーさん。あのね、おくのおへやに、ね。おねえちゃんがいたの」
「………どんなお姉ちゃんだった?」
「あかいおきものきてるの。きれいなひと」
「結花は、その人とお話ししたか?」
「うん、あのね、あのね……えと……
『こんどはどんなあそびでまけたいか、おとーさんにきいてきなさい』って」
「………『のぞむところだ、このさびしんぼう』って、そのおねえちゃんに伝えてきなさい」
「うん!」








終わり。……前よりさらに長くなった。マジごめん。

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